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学童期・思春期の予防理学療法 ここでは小学校から高校生くらいを想定して書いていきます。普段、病院等で理学療法士として勤務していても高齢者が多く、この年代の患者といえば、その多くは外傷などによる骨折やスポーツでの怪我が多いのではないでしょうか。病院でリハビリテーションを担当しているということは、何らかの病気・怪我があり、通常3次予防の部分になるでしょう。では、1次予防・2次予防ではどのような関わりがあるのでしょうか。 近年、学童期の肥満や脊椎変形が問題となっています。小児肥満の約70%は成人肥満やメタボリックシンドローム(以下、メタボ)に移行すると言われており、脊柱変形は成長に悪影響を及ぼし、腰背部痛や呼吸機能障害などを引き起こすこともあります。これらを予防していくことは重要となります。 小児の肥満の原因には、テレビ、ゲーム、塾通いなどの時間が多くなり運動の機会が低下していることが一因となっています。またインスタント食品などの栄養の偏り、生活習慣の乱れも原因となるでしょう。これらを予防するためには、食事などの生活習慣の見直しや運動習慣を身につけることが重要です。運動療法の専門家である理学療法士は、子どもの運動習慣の定着に貢献できる可能性があります。しかし、子どもに運動しましょうと指導するだけでは不十分で、楽しみながら体を動かすような機会づくりやスポーツを通じた運動習慣の定着を目指すと良いでしょう。また子どもだけでなく、両親に対して運動の必要性を伝えていくことも必要だと思います。肥満予防であれば1次予防、肥満の子どもに運動指導などであれば2次予防に該当するでしょう。 学童期の代表的な脊柱変形は、脊柱側弯症と脊柱後弯症(いわゆる猫背)があります。脊柱側弯症の原因の80%が原因不明の特発性とされていますが、不良姿勢といった生活習慣や体幹筋の筋力低下が原因となることもあります。原因不明の特発性側弯症の発生を予防することはできませんが、進行予防が重要となり、体幹筋の筋力強化や柔軟性の保持といった運動療法が有効です。その他、装具療法や不良姿勢や鞄の持ち方など生活習慣の指導も必要となります。これらは重症化予防の観点では2次予防のひとつになります。また1次予防の観点では、学校保健安全法により、2016年より学校での運動器検診が開始されました。学校医には整形外科医が少ないため、理学療法士と学校医が連携して運動器チェックする試みが始まっています。これらが始まった背景には、上述したような小児の肥満や脊椎変形の問題だけでなく、反対に小児期からの競技スポーツによる身体への負担の増加・使い過ぎによるオーバーユースや成長障害も多くなっており、2極化が進んでいることも要因としてあります。そのため、体育の授業等での運動機能評価や部活動などでのオーバーユースによる成長期の運動器障害の予防やアドバイスなども求められます。そのため、理学療法士は発育・発達上の特徴やオスグットシュラッター病などの成長期に起こりやすい病態などを理解する必要があります。 部活動での活動も必要 思春期では学童期と同様に肥満、メタボへの対応(生活習慣病予防)と同時に部活動・クラブ活動などスポーツへの関与がより求められます。この時期は、ストレッチなどのウォーミングアップ・クールダウンといった身体のセルフケアの重要性などを啓蒙する必要があります。これは成長障害や怪我を予防する観点からも重要です。 自分の経験でも小学・中学・高校とサッカーをやってきましたが、若い時ほど怪我への意識が低く、ウォーミングアップやクールダウンをするよりもボールをたくさん蹴ることの方が楽しくて、ストレッチをないがしろにしていました。それが影響してか、怪我も多くしましたし、成長期には腰痛を経験しました。(当時の経験が私が理学療法士を目指すきっかけになりました。) また中学生ぐらいでは、中学1年生でも3年生でも同じ練習メニューが行われることがあります。しかし、成長期には個人差があり、負荷のかかり方が違うことなども留意する必要があるでしょう。つまり、中学1年生で、まだ成長期を迎えていないほぼ小学生の体格の子と、中学3年で成長期もほぼ終わり高校生並みの体格をしている子が混在しています。さらに、より競技スポーツレベルになると怪我の予防の観点からテーピングをすることもあります。従来、テーピングと言えば、怪我をした足などを固定するものとして理解されていました。しかし、捻挫予防などであらかじめテーピングして練習・試合をすることがあります。そのような場面でも対応するためにはテーピングの技術・知識が求められるでしょう。このように部活動やスポーツによって怪我を予防することは1次予防に分類されます。 スポーツに関わりたいと思って理学療法士を目指した方は多いと思いますが、プロスポーツだけでなく、小学校~高校の部活動・クラブ活動に関与するニーズは増えています。しかし、実際は部活動レベルではコーチを雇うことすら難しく、ましてやメディカルスタッフを依頼することは壁が高く、ハイレベルなチームに限られているのが現状でしょう。 理学療法士としてもスポーツに関わりたい人はまずはプロボノ(専門家が持っている知識・技術を活かしたボランティア)としてスポーツ分野の経験を積むためにボランティアで部活動のサポートをすれば、自分のためにも、学生のためにもなるのではないでしょうか。 このように病院などで理学療法士として働いている場面ではなかなか遭遇しない、学童期から思春期でも予防の分野で理学療法士の活躍の可能性があります。主に3次予防で活躍する理学療法士の基本的な知識・技術は1次予防・2次予防でも大いに役立ちます。興味がある分野があれば、自ら調べ、キャリアアップのきっかけにしてください。 |

